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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2010号 判決 1963年4月22日

控訴人(原告) 飯島浩三

被控訴人(被告) 大宮市長・大宮市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。本件を浦和地方裁判所に差戻す。又は被控訴人大宮市長が控訴人に対し昭和三六年一〇月一一日付で国民年金印紙の売りさばきを行うことを命令した処分は無効であることを確認する。仮りに右請求が理由がないとすれば、右命令を取消す。被控訴人大宮市は控訴人に対し五万円を支払え。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、つぎに掲げるもののほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴人は当審において、つぎのとおり付け加えて述べた。

一、大宮市支所設置条例に「国民年金に関する事務」と規定したのは国民年金法に定める事務全部を支所において取扱うことを意図したものではない。現に支所において取扱う事務は、同法施行規則(昭和三五年四月二三日厚生省令第一二号)に定める印紙の検認及び願、届書類の受理、進達に限られ、福祉年金支給規則(昭和三四年厚生省令第一七号)等に関する事務は、市社会課で取扱い、支所では取扱わない事実は、これを証明するものである。いわんや、国民年金法に定めず、市町村の任意事務である印紙売りさばきを「国民年金に関する事務」であるとする理論の成立する余地はない。

二、被控訴人は、大宮市支所設置条例第二条第一五号「国民年金に関する事務」には印紙売りさばきを含むとし、その根拠を、大宮市出納員規則付属別表中に各支所における出納員分掌事務の内容として、国民年金印紙売りさばき代金の収納事務をかかげていることにおいているが、それでは出納員規則により支所設置条例の効力を拘束する結果となる。規則は条例に対し下位法であるから、下位法が上位法に優るとすることは法の優劣に関する原則に反し、この主張は採用できない。

三、大宮市出納員規則は第二条において市に出納員を置く旨定めている。出納員、分任出納員を置く形式は地方自治法に明示してないが、副収入役を置く場合条例で定めることとしていることからみて、やはり条例によるべきものと思われる。ところが、右規則は市規則として公布されているから違法な規則であるから市職員の権利を拘束し、義務を課する効力はないが、これを適法有効なものと仮定しても、同規則に定めた事項は、出納員として任命を受け支所に配置された職員に限り、服従の義務があるものであつて、その他の一般職員を拘束し得るものではない。

四、従つて、本件命令は、特別権力関係に基ずく職務命令の範囲を逸脱した違法な行政処分である。

被控訴人は当審で、つぎのとおり付け加えて述べた。

一、控訴人は、大宮市支所設置条例に、国民年金印紙売りさばきに関する事務を、支所の所掌事務として定めていない旨主張しているが、この主張は右条例の解釈を誤つたものである。

すなわち被控訴人大宮市は、被控訴人大宮市長の権限に属する事務の一部を分掌させるため地方自治法第一五五条に則り支所を設置し、支所設置条例第二条において支所の所掌事務を定めたのであるが、国民年金法の制定施行にともない「国民年金に関する事務」(同条第一五号)もその一に加えられた。そして「国民年金に関する事務」とは、国民年金法の施行にともなう諸般の事務の中から特に国民年金印紙売りさばきに関する事務を除外した趣旨ではなく、かえつて狭義の国民年金関連事務と右印紙売りさばき関連事務との両者を包含する意図のもとに、広義の国民年金に関する事務を支所の所掌事務と定め、表現上単に「国民年金に関する事務」と記載するに止めたものにすぎない。

右の点は、大宮市出納員規則付属別表中に各支所における出納員分掌事務の内容として、国民年金印紙売りさばき代金の収納事務を掲げていることからも明らかである。

したがつて、本件命令に違法な点はなく、しかも右命令は支所所掌事務の執行を控訴人に命じたいわゆる職務命令の域を出ないものである。

二、控訴人の前記主張のうち、福祉年金支給規則に関する事務が市役所社会課で取扱われている事実は認めるが、その他はすべて否認する。

国民年金に関する事務のうち、福祉年金支給に関する事務が支所で取扱われていないのはつぎの理由による。福祉年金支給規則に関する事務は、本来広義の国民年金に関する事務に包含されるものであるが、福祉年金の支給に関しては受給者につき法定の支給要件の具備等の判定を要し、その事務が複雑多岐に亘るので、支所の負担の軽減を図り、かつ統一的運用によつて過誤を防止するため、事務処理の便宜上これを特に支所の所掌にかかる広義の国民年金に関する事務から除外する取扱をしているにすぎない。

理由

当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、つぎのとおり付け加えるほかは原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

一、控訴人は、大宮市支所設置条例に「国民年金に関する事務」と規定したのは、国民年金法に定める事務を全部支所で取扱うことを意図したものではなく、国民年金印紙売りさばきの事務は支所の分掌事務ではないと主張し、その例証として、大宮市では国民年金に関する事務のうち福祉年金支給規則に関する事務は、市社会課で取扱い、支所では取扱つていない事実をあげている。前記条例は、その第二条に「支所においては左の事務を掌る」として、その第一五号に「国民年金に関する事務」を掲げているだけで、そのほかにはこれに関する規定は見当らない。そうすると、右の規定は「国民年金に関する事務」の全体を支所の分掌事務としたとみるべきであり、特に国民年金印紙売りさばきに関する事務を、除外しているとする理由は全く無い。もつとも、控訴人が主張しているように、福祉年金に関する事務は市社会課で扱つていることは、争のない事実であるが、条例の規定自体からはそうしなければならぬものではなく多分事務上の都合からそのように運用されているものと推測されるし、いわんや右事実をとりあげて、国民年金印紙売りさばきに関する事務も、支所で取扱わるべきではないということはできない。

二、つぎに、大宮市出納員規則別表に、各支所の分掌事務として「国民年金印紙売捌代金の収納」と定めてあることは、控訴人の指摘するとおりであるが、これは前記条例により支所で国民年金に関する事務を扱うことになつており、その事務のうちには、前示のとおり当然国民年金印紙売りさばきに関する事務が含まれているから、支所の出納員がこれを行うことを明らかにしたまでのことで、控訴人主張のように、右規則により前記条例の効力を拘束することにはならない。

三、また控訴人は、大宮市出納員規則は、規則をもつて出納員を置いている点で違法であり、仮りに適法有効としても出納員に対してのみ拘束力を有するにすぎない旨主張する。しかしながら、地方自治法においては、市町村が副収入役を置くには条例によるべき旨定めているのに反し、出納員の場合には、出納員、分任出納員は、事務吏員の中から、普通地方公共団体の長がこれを命ずる(同法第一七一条第二項)としているから、これを置くのに条例を必要としないことは明らかで、右規則にはこの点に何らの違法もない。そして、一般事務吏員も上司の命令があれば、補助者として出納その他の会計事務を行うことができるのであつて、被控訴人大宮市長から本件命令を受けた控訴人が右規則により国民年金印紙売りさばきの事務を行う義務を有することはいうまでもない。

四、以上により、当審における控訴人の主張はいずれも理由がなく、本件命令を抗告訴訟又は無効確認訴訟の対象となる行政処分と認めることができない。

従つて、控訴人の被控訴人大宮市長に対する本訴は、いずれも却下すべきであり、また被控訴人大宮市に対する本訴は、いずれも棄却すべきものであるから、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よつて本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 脇屋壽夫 渡邊一雄 太田夏生)

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